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青森家庭裁判所弘前支部 昭和44年(家)472号 審判

申立人 石塚元造(仮名)

相手方 夏目邦治(仮名) 外一名

主文

一、別紙目録記載の不動産を相手方植田ムツの所有とする。

二、申立人および相手方更目邦治は同植田ムツに対し右所有権移転登記手続をすること。

三、相手方植田ムツは申立人に対し八〇八万三、〇〇〇円、相手方夏目邦治に対し四一万三、〇〇〇円を各支払うこと。

四、右申立人に対する支払につき、うち三〇八万三、〇〇〇円はこの審判確定の日から三ヵ月以内に、残り五〇〇万円はその後五年以内にそれぞれ支払をすることができる。右の場合においてはこの審判確定のときから六ヵ月を経過した日を起算日とし、各支払の日までの残元金に対する年五分の割合による金員を付加して支払わなければならない。

五、前各項の支払義務を担保するため、相手方植田ムツは別紙目録記載の不動産の所有権取得登記を経ると同時に自己の費用負担で右物件につき申立人のために抵当権を設定し、その設定登記手続をすること。

六、審判費用はその四分の三を申立人の、その余を相手方両名の各負担とする。

理由

一、申立の実状

別紙目録記載の不動産(以下本件物件と称する)はもと小村大五郎の所有であつたが、同人は昭和三〇年九月一三日死亡して相続が開始し、その後一部の相続人が死亡したりして現在では相手方両名が右遺産についてそれぞれ九〇〇分の三五、九〇〇分の一八〇の各相続分を有するほか、申立人が残り九〇〇分の六八五の持分の譲渡を受け、現にこれを所有するものである。而して右遺産相続人間においてはさきに青森家庭裁判所弘前支部に遺産分割審判(付調停)事件が係属したが調停は不調に終り、同事件は取下げにより終了した。その後前記のとおり申立人が持分の譲渡を受けたが、右のような経過に照らし相手方との間で遺産分割の協議が調う見込みがないので本申立におよんだ。

二、当裁判所の判断

当裁判所は相当の証拠調をなしたうえ、次のとおり認定判断する。

1、申立適格と申立要件

申立人は本件物件につき後記割合による各持分の譲受人であると認められ、且つ、右物件は被相続人の唯一の遺産であるから(この点は当事者間に争いない)、このような場合、申立人は相続分譲受人と同様に観念され、遺産分割の申立適格あるものと解すべく、また、本件各当事者間においては右分割方法についての意見の一致が得られない。

なお、相手方植田ムツは、申立人に対して昭和四三年八月二六日頃、その価額、費用合計三六〇万円を持参提供して持分(本来、共有持分の譲渡は後述取戻権の対象とはならないけれども、前記事情にある本件の場合、仮りにこれを相続分の譲渡と同様に観念するとして)の取戻を受けたと主張するけれども、右譲渡がなされたのは同年四月一六日であり、それから一ヵ月経過後になされた相続分取戻権の行使は無効というほかなく、(民法九〇五条二項。法律学全集相続法一九六頁参照)、右除斥期間の始期を譲渡のあつたことを知つたとき、或は譲渡通知を受けたときと解しても、その価額は優に相手方主張の金額を超えるものと認められるから(鑑定書参照)いずれにしても右主張は採用の限りでない。

2、相続分(持分)と相続財産

その割合は申立人九〇〇分の六八五、相手方夏目邦治九〇〇分の三五、同植田ムツ九〇〇分の一八〇であり、対象物件は被申立人の唯一の遺産である別紙目録記載の不動産である。

3、分割方法

(一)  本件物件は被相続人小村大五郎の唯一の遺産であつて件外小村秀男が外地に出征中親許へ送金した資金で被相続人が買い求めたものである。右秀男は引揚後被相続人らとその生活を共にしていたこともあつたが、昭和二九年頃仕事の都合で青森市へ転居することとなり、同人の懇請で相手方植田ムツの家族が本件家屋に移り住んで両親の身辺の面倒をみてきたところ(もつとも秀男が金銭的な援助はしていた)、両親死亡後も植田一家が引き続き同家に居住して現在に至つている。一方、申立人は相続人小村秀男(同人が相手方両名を除く他の相続人から各持分全部の譲渡を受けた)からその持分の譲渡を受けたものであるが、右代金のうち一五〇万円はさきに貸与していた金員をもつてこれに充て、残額の決定とその支払方法は本件物件の処分方法が確定した時点で取り決める約束になつている(取寄記録中の本人尋問調書等参照)

(二)  そして本件土地は本件建物の敷地として利用されていること、前記認定の相手方植田ムツの右遺産占有に至る経緯とその使用状況(現在同人および家族の生活の本拠となつている)、遺産処分方法についての当事者双方の意向(申立人は第一次的に競売による金銭の分配を希望している)その他一件記録上窺われる諸般の事情を併せ考え、当裁判所は本件物件は相手方植田ムツの取得するところとし、相続分を超える部分の代償として他の当事者に対して債務を負担させるとともにその金額等に鑑み右履行確保のため本件物件につき抵当権の設定を命ずるのが本件遺産分割の方法として最も適切であると思料する。

(三)  ところで一件記録(就中、鑑定書)に照らすと本件物件の価額(分割時説を採る)は合計一、〇六二万一、〇〇〇円と認めるのを相当とすべく、そうすると右持分に応じ本件各当事者の取得すべき価額は申立人につき八〇八万三、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨、以下同じ)相手方夏目につき四一万三、〇〇〇円、同植田につき二一二万四、〇〇〇円となり、右物件を単独取得する植田ムツは申立人らに対し前記各金員の支払義務を負担することとなる(もつとも植田ムツは本件物件につきその維持管理のため一部税金等も含め幾何かの費用を支出していることが認められるけれども-唯、それを遺産分割手続中で処理すべきかどうかにつき疑問がないでもないが、仮りに積極説を採るとして-記録上窺われる一切の事情を斟酌すると、右の費用はその占有使用の対価、即ち賃料と差引き計算されるものとみて本手続においては格別の清算は必要ないものと考うべく、また、件外小村秀男の本件遺産取得についての寄与分も前記諸事情、特に、その持分を申立人に譲渡した現在では別段の配慮は要しないものと考える。なお植田ムツの主張する扶養義務履行の点は相続人間の固有の法律関係に属するから本手続の対象となし得ないことはもとより当然である)。

(四)  相手方植田ムツの申立人に対する右金員の支払方法についてはその金額、資力等諸般の事情を勘案し、三〇八万三、〇〇〇円はこの審判確定の日から三ヵ月以内に、残余の分はその後五年以内に各支払をなすことを許容すべく、かつ、右の場合には主文掲記のとおり付加金の支払を命じ、更に右支払義務を担保するため相手方が本件物件の所有権取得登記を経ると同時にその費用負担において右物件につき申立人に対する抵当権を設定し、その登記手続をなすこととする。

4、審判費用

概ね各取得割合に従つて負担させる。

(家事審判官 磯部有宏)

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